結末に触れています。本編観賞後にお読みください。
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タリーが二つの正体を持っているというアイディアは、脚本のコディが3人目の子供を産んだ後で経験した疲労困憊状態から生まれたものだ。「私は二人の子供と新生児の母であることと格闘していたわ」と彼女が説明する。「その時、こう思ったの。『若い時の私はもっとエネルギーにあふれて楽天的だった。若かった時の自分が現れて、ここを乗り切らせてくれるといいのに』。」
このアイディアを聞いたライトマンは、「同時に2本の映画でもある作品を作るチャンスだった」と振り返る。「隠れているもう1本は、自分の若さに別れを告げるストーリーだ。それは人が親になった時に起こる出来事で、一つの章が終わり、新たな章が始まる。もしも若い時の自分がさよならを言うために現れたとしたら? 若い頃の自分に、ダメで退屈な人になったことを許してもらえる。自分の子供に安全と安心と、必要な教育を与えるためだからね。実は、もう1本の映画を観ているのに、最後の最後になるまで、観客はそのことに気づかない。」
最後の水中場面では、タリーが人魚となってマーロを救い出す。「人魚は変身する生き物だから魅力的だと思ったの」とコディが解説する。「ある意味、人は親になるための戸口を通ると、見たことがない生き物になる。時には素晴らしい変身を遂げることもあれば、衝撃的な変身になることもあるわ。」
最終的にタリーは、マーロがタリーの年齢だった頃の生活と、今の生活の間のギャップを受け入れるところまで彼女を導く。今の自分を好きになることができたマーロはすっかり元気になり、ようやく目が覚めたことに気づくのだ。
ライトマンはマーロの衣装を考えるにあたって、「映画では妊娠を光り輝く美しいものとして描く傾向があるが、僕たちは混乱したものにしたいと思った」と説明する。
衣装デザイナーのアリーシャ・リーは、「シャーリーズを180センチの美女から妊婦へ、そして3人の子の出産後の母へ変身させたわ。マーロは精神面でも体形でも、観客の共感を得なくてはならない。熟練のプロであるシャーリーズが、この役のために18キロ近く体重を増やしたおかげで、私たちはさらに力強いヴィジュアルを作り出すことができたわ。」
リーは、格安店やマタニティ・ストアで、スエット・パンツやパジャマのズボン、“ママ向きの”ジーンズ、ぶかぶかのTシャツ、バスローブやカーディガン、長くゆったりとしたマキシ丈のワンピースを探し回った。リーは、「機能優先で、形が崩れて着古された服を探したわ。マーロの疲労困憊状態と動揺ぶりを反映させるためにね」と説明する。
一方、タリーの衣装は、簡単ではなかった。彼女の服装は、同時進行のストーリーを伝えなければならないからだ。ライトマンが説明する。「ストーリーAでは、若くしなやかな女性がマーロの家に滑り込んでくる。ストーリーBは、マーロが自分で想像した若い時の自分が会いに来る話だ。タリーは若かった時のマーロを完全に映し出す鏡ではなく、マーロの若い時の姿と行動を奇妙に組み合わせたものだ。タリーの服装は、マーロが高校生や大学生だった90年代に好きだった映画や憧れていた女性を反映している。」
リーが解説する。「90年代の映画や音楽、ファッション、テレビのアイコンを探求したわ。90年代は、第3の波のフェミニストたちが、“セクシーな服装の女性は自ら災いを招く”という意見に対する挑戦として、わざとそういう服を着た時代でもあった。たとえば、タリーが着ているチビTシャツは、あの時代のフェミニズムのパワーにも触れているの。」
ちょうど今、ゆるいハイウェストのジーンズやオーバーオール、チビTシャツなどの90年代ファッション・アイテムが復活している。そのため、デイヴィスは90年代のファッション・トレンドを取り入れた現代の女性にも見える。リーは時にはデイヴィスも連れて、ビンテージ・ストアと格安店を回ると共に、自分のコレクションからもいくつかのアイテムを提供した。
マーロの家に最初に現れた時のタリーは、紺色のトレンチコートを着て、首にスカーフをまいている。これは、ライトマンがタリーを“現代のメアリー・ポピンズ”にしようと考えたからで、ポピンズの帽子についた羽根を思い出させるために、羽根付きのブローチもつけている。
さらにライトマンは、「タリーが初めて登場する時、ドアをノックし、外で待っている。2度目は、鍵を持っていたかのようにドアを開ける。そして3度目は、すでに家の中にいたかのようにオフスクリーンからふっと姿を現す。彼女の登場の仕方にも魔法が見られるんだ」と解説する。
ロブ・シモンセは、ピアノ中心のスコアを作りだした。ライトマンは、「彼が送ってくれた曲を、何度も繰り返し車の中で聞いた。とてもゴージャスだった」と称賛する。
さらにライトマンは、2014年に監督した『ステイ・コネクテッド~つながりたい僕らの世界』に出演した、女優で歌手のケイトリン・デヴァーに、ジェームズ・ボンドの『007は二度死ぬ』の主題歌のカバー・バージョンを提案した。デヴァーは妹のマディと、ギターとピアノのコンビとして演奏している。ライトマンは、二人のスタジオでのレコーディング版より、アイフォンに録音したスクラッチ・トラックを気に入り、そちらを採用した。ボンド映画の楽曲に対する権利は、ブロッコリ一家が管理していて、映画のためのカバー・バージョンに許可を出すことはまれだ。幸運にも、プロデューサーのバーバラ・ブロッコリが『JUNO/ジュノ』のファンだったので、すぐに許可が下りた。
デヴァー姉妹は、オリジナル曲の「Let You Go」も歌っている。さらに、もう一つの重要な楽曲は、ジェイホークスの物悲しい「Blue」で、コディが脚本に特に書き入れたものだ。映画の前半のシーンに使われた後、エンディング近くでマーロとタリーがブルックリンに出かける場面でもう一度やさしく流れ、タリーの正体を見せるもう一つの手掛かりとなっている。ライトマンが、「彼女も僕も大好きな曲で、『JUNO/ジュノ』と『ヤング≒アダルト』の両方で使おうとしたが、うまくいかなかった。でも、今回は完璧にはまった」と胸を張る。